2021/01/01

〈ホゲットってなんだ?〉第1回

ほら、そこ滑石落ちてますよ

<プロローグ>
私たちのあたらしい拠点〈HOGET・ホゲット〉の名は、
西海市の国指定史跡「ホゲット石鍋製作遺跡」に由来します。
実は西海市がある西彼杵半島は、
今から一千年もの昔……平安時代〜室町時代にかけ、
滑石という石でつくる「石鍋」の一大生産地だったのです! (←伝わりにくい興奮)
西海で作られた石鍋は、なんと、北は青森、南は琉球列島にまで運ばれたとか。
今回は、そんな知られざる石鍋の歴史、そして石鍋のオモシロサを探るべく、
20年近く石鍋を追いかけ続ける研究者・松尾秀昭さんと、西海の山の中へ……!

案内してくれた人
松尾 秀昭 さん

1979年、長崎県佐世保市生まれ。国士館大学文学部卒業、別府大学大学院文学研究科修士課程修了。佐世保市教育委員会 文化財課 主査。自身の好奇心に動かされ、休日を使ってプライベートで石鍋を研究。おもな著作に「石鍋が語る中世 ホゲット石鍋製作遺跡」(新泉社)など。

●西海市大瀬戸町雪浦地区。ホゲット石鍋製作遺跡(以下・ホゲット遺跡)への登山口は、この地域を流れる雪浦川をさかのぼったところにある。松尾さんと合流し、いざ、ホゲットメンバーが登山道を進むこと30秒……。

遺跡の登り口から、さっそく山へ分け入っていく松尾さん。

ほら、そこ滑石落ちてますよ。

HOGETメンバー(以下・H) ええっ、もうですか!? まだ歩き始めたばっかりなのに……!?

どどーん!これが石鍋の素材である「滑石(かっせき)」。無造作にいっぱい落ちている。

松尾さん(以下・松) この辺は、石鍋の素材となる滑石がかなり多いんですよ。ホゲット遺跡とは違って、「ドンク岩」という名前の場所のものですね。
H ん……? ちょっと待ってください、ホゲット遺跡とは別に、それぞれの場所に名前があるんですか?
 そうですよ、ホゲット遺跡っていうのは、第1工房から第11工房のことだけで、西彼杵半島には同じような工房跡が200ヵ所以上発見されています。ホゲット遺跡は数ある工房跡の一部で、もっと大きな場所もあります。
H そ、そうだったんですね! てっきり、「石鍋=ホゲット」だと勘違いしていました……。

松尾さんが作った、GPSマップ。赤丸はすべて、石鍋遺跡。エーッ、こんなにあるの!?

石鍋研究は、プライベートです。

●気持ちの良い山の空気や木漏れ日のあたたかさを感じながら、ホゲット遺跡に向けて山を登る一行。松尾さんは鎌を片手に草を払いながら、先頭をゆく。

H ところで、松尾さんが最初に石鍋に興味を持ったきっかけはなんですか?
 私は佐世保生まれで、大学が東京で、向こうでも発掘をしていたんです。その後、大学院で大分に来て、九州や佐世保でも発掘の仕事をするようになると、石鍋が出てくるんですよ。石鍋って東京では見たことがなくて、「なんだこの石は、なんじゃこりゃ〜!?」って。これはおもしろい!と思って西彼杵半島を全部調べようと思ったんですが、ほかにあまり調査をしている人もいなくて、土日の度に山に入って自分で調べるようになって……22、23歳頃からだから、もう20年近いかな? 石鍋研究は仕事ではなく完全にプライベート、好奇心でやってます(笑)。

H いわば、松尾さんの“趣味”なんですね(笑)。遺跡の発掘や研究って、どんなことをするんですか?
 たとえば、すでに「遺跡」としてわかっている場所だけじゃなくて、新たに自分で遺跡を探しに行きます。若い頃は特に何も考えず、縦横無尽にぐるぐるぐるぐると山を登っていましたが、さすがにそんな体力もなくなってきたので、今は頭を使って探します(笑)。そんな時まず見るのは「川」。昔は川を使って石鍋を運んでいたので、川に滑石があれば近くに採掘する所があるんだな、と推測できる。それで、川上へ登って、周辺を探すんです。

遺跡に行く道中には、小川のような場所も。
滑石のかけら。
水辺を見て、近くに遺跡がありそうかどうか推測するのだそう。

H なるほど〜! ちなみに、松尾さんが調査に行く時に、いつも持っている道具ってあるんですか?
 まずは、石鍋研究に欠かせない地図。コンパスに測量器、ものさし、ヘッドライト、イノシシ避けのラジオ(笑)、それから記録をする測量野帳。こんな感じです。

松尾さんの、七つ道具!
ノミ跡のサイズなども、時代を推測する重要な手がかりとなるそう。

<第2回へ続きます!>