2021/09/01

〈さいかいカルチャー〉第3回

映画「彦とベガ」
上映会によせて
柳谷一成さんインタビュー

西海市出身の 俳優・柳谷一成 さん 出演〈彦とベガ〉上映会

西海市には映画館がなくって……いや、西海市に限らず“まちの小さな映画館”というのはどんどん少なくなっていて、「HOGETができたら、映画上映会を開きたいね」というのは、HOGETメンバーのひそかな夢のひとつでした……★

今回、ご縁あって西海町出身の俳優・柳谷一成さんが出演した映画〈彦とベガ〉の上映会を、9月にHOGETで開催することに!(※新型コロナウイルスの影響により、上映会は中止となりました)

開催に先立ち、柳谷さんと「役者のこと、西海のこと」おしゃべりしました。

柳谷一成・やなぎたにかずなり

1989年西海市西海町出身。専門学校卒業後、一度は就職をするが、俳優を目指し上京。俳優養成所UPSアカデミーに入所し修練を積む。2013年「はつ恋」(鶴岡慧子監督)で初主演。2015年には映画「彦とベガ」(谷口未央監督)で福岡インディペンデント映画祭俳優賞受賞。映画を中心に活動。数多くの作品で主演を担うなど、華と実力を兼ね備える。

俳優? なんばいいよっとか!って(笑)

柳谷さんは、何歳まで西海に?
柳谷さん(以下・柳) 18の時まで、ですね。両親と仲が悪い、とかではなかったですけど、早く西海を出て一人暮らしをしてみたかったし、都会にも興味があったから、家具職人になるために福岡の専門学校に行きました。


ーか、家具職人?
 役者をやりたい、っていうのは中学生くらいの頃からずっと思ってたんですけど、周りにそんな人は誰もいないし、とても言える感じではなくて。日曜大工みたいな感じで家具を作ったり、インテリア雑誌を見たりするのも好きだったから、とりあえず専門学校で家具の勉強をして、内装工事などをする会社に一度就職したんです。


ーそもそも、役者になりたいと思い始めたきっかけは何だったんですか?
 きっかけはたぶん、とうちゃんと見ていた映画。ジャッキー・チェンとか(笑)、テレビでやると録画して、いっつも見てたんです。昔は小迎に〈ゴン〉っていうレンタルビデオ屋があって、そこで映画を借りたり。高校の頃は同級生とバンド活動にもハマってたんですよ。川内の夏祭りとか、スポーツガーデンの「ふるさとまつり」だっけ? にも出たりして! 観客のじいちゃんばあちゃんは、耳塞いでたけど(笑)。


ー西海にもそういうカルチャーがあったんだ! でも、家具職人を辞めて、諦めていた役者を目指した経緯は?
 『それでもボクはやってない(監督周防正行/07年)』っていう映画があるんですけど、その主演の加瀬亮さんの演技が衝撃的で……「あ、やっぱ役者やりたい」って。その時、自分の中で家具職人、バンド、役者、の3つの道が出てきたんですけど、一番面白そうなのが役者だな、と思ったんです。


ー一番面白く、一番けわしそう(笑)。
 ですよね(笑)。結局、会社は一年で辞めて、福岡でモデル事務所に所属してみたりもしたんですが、やっぱり東京に行くしかないな、と。それで、当時から好きな加瀬亮さんやオダギリジョーさんが学んだ俳優養成所を調べて、入所しました。それが22の時。


ーご両親には、反対されなかった?
 かあちゃんは、やりたかったらやってみたら? って感じ。でも、とうちゃんは……なんばいいよっとか!って(笑)。ギリギリまで納得してなかったけど、いざ東京に引っ越す時は手伝ってくれて、帰り際に「じゃあの〜」とか言いながら、ちょっと涙ぐんでて。その時は「うわ、マジか」って、一気に寂しくなりましたね……。でも、養成所の卒業公演では、かあちゃんや弟も喜んでくれて、マクドナルドのCMに出演した時には、誰にでも言いふらしてたみたい(笑)。僕の実家は豆腐屋で、「ダメだったら豆腐屋を継げばいいか」という気持ちもどこかにあったんですが、2年くらい前に豆腐屋は弟が継ぐことになって、いよいよ、こっちで頑張っていかなきゃな、と。

柳谷さんのご実家のお豆腐やさん。毎日まちを配達する、日常の風景。

いつか西海でも、映画を。

 西海がイヤで都会に出たんですけど、出て行ってから、西海の良さがわかるようにもなって。黒口あたりの造船所を望む海沿いとか、畑下から丹納に向かうあたりの佐世保を望む風景とか……このロケーションで映画を撮りたいと、ず〜っと思ってはいるんですけど、何を描けばいいのか、まだ見えてなくて。でもいつか、西海の何気ない日常の風景を活かしつつ、映画が撮れたらいいですね。


ー最後に、かつての柳谷さんのように将来のことで悩む西海の若い子たちに、何かメッセージを(笑)。
 ……特にナイ(笑)けど、そういう子たちの周りに、面白い大人がいたらいいな、と思います。若者がやってることを否定せず「イイじゃん!」って乗っかってくれるようなヘンな大人が。


●確かに。そんなヘンな大人でいたいし、若い子たちのよりどころでありたい!と思うHOGETなのでした(了)


「彦」「ベガ」と呼び合う老夫婦。うつろう日々の中で、共に生きることを星に願った。

山あいの古民家で暮らす老夫婦、比古朝雄(川津祐介)と、こと(原知佐子)。ことは認知症で、自分を16歳の少女と思い込んでいる。互いを「彦」「ベガ」と呼び合い、川原で星を眺めることが日々の楽しみ。離れて暮らす一人娘は、ことの老人ホーム入所を提案するが、朝雄は首を縦に振らない。ある日、比古家に若い訪問介護ヘルパー・菊名慧(柳谷一成)がやってくる。認知症のことに最初は戸惑う菊名だったが、日が経つにつれ、ことの少女のような振る舞いに愛らしさを覚える。一方、朝雄は二人の親密な様子に複雑な想いを募らせていた。朝雄とことの穏やかだった日々がうつろい始める……。(監督・脚本 谷口未央/2016年)

映画〈彦とベガ〉ウェブサイト