2021/07/01

〈さいかいカルチャー〉第1回

はじめての
アナログな音楽
ぼくの音浴博物館体験記

訪ねた人・・・森くん。レトロなフィルムカメラが趣味の25歳。音楽とは無縁だったが、数年前からピアノ教室に通う。

大人の趣味ってのに憧れて、
フィルムカメラに、
ジャズピアノもはじめた僕。
次にちょっと背伸びして訪ねたのは、
西海の森の中、レコードの博物館だった。

若者、いざアナログ音楽の世界へ。

新しい音楽は、もっぱらSpotifyのレコメンド機能で探す。だけど最近、予定調和にも飽きちゃって、思いがけないハプニングに出会ってないな。「西海のものすごいレコードの博物館にはもう行った?」友達の言葉がふと頭をよぎる。レコードなんてどうやってかけるのか、一枚いくらするのかもわからない。自分には関係ないと思ってた。でも、ふれたことのない音楽、あえて飛び込むのもアリかも……?

思い立ったが吉日。好奇心にしたがって、ウワサの〈音浴博物館〉へ行ってみることに。山奥のさらに奥、本当にこの先にあるの? と不安になりながらも、たどり着いたのはレトロな建物。廃校になった小学校の校舎を使っているからかな、初めてなのに、なんか懐かしい。勢いでここまで来てしまったけど、初心者歓迎!の看板は見当たらない。大丈夫かな。愛用のフィルムカメラを片手に、アナログをたしなむ大人モードを装って、新しい音楽の世界のトビラを開いてみた。

レコードがずらり。木造の校舎がめちゃくちゃエモい…!
脚立に乗ってもこの高さ。16万枚もあるらしい……すごすぎ。

出会う、旅する、レコードの森。

緊張する僕をむかえてくれたのは、館長・中村さんとキュレーターの長田さん。「奥へ案内しますね」そう誘われついていくと、僕の背よりうんと高い棚に、びっしりとレコードが並ぶ部屋が現れた。もしかして、僕ってすごいところに来ちゃった? しかも、「ここにあるのは、どれでも好きにかけていいよ」なんて言われて、どうしよ。……あ!そうだそうだ。ジャズピアノの先生が話してた演奏家や名曲をメモったスマホ画面を見せながら、「これが聴きたいです」って伝えてみた。これでなんとか伝わってくれるかな……と不安になる僕をよそ目に、長田さんは「ふむふむ、こういう感じね」とつぶやきながら、部屋の中を歩き回りはじめた。

案内してくださった長田(おさだ)さん。
ガンダムー!笑

怖がらずに僕も覗き込んでみれば、ジブリとかビートルズとか、なんだ知ってる名前も結構あるじゃん!「その人の趣味やリクエストを聞いてから選曲することが多いですね。特になければ王道を」と長田さん。僕みたいなビギナーは、思い切って施設の人に身を委ねるのが正解かも。「さて、そろそろ聴いてみましょうか」いつの間にか両手で何枚もレコードを抱えていた僕は、さらに奥の部屋へ招かれる。
 

Sound Showerを体感せよ!

レコードに囲まれた部屋を抜けると、そこはステージ上に何台ものスピーカーが積み上がった“聴くための空間”だった。回転数を確認して、音量のつまみをゼロに、円盤の上に針をそっと落としたら、準備OK。長田さんから教えられるままにやってみたら、レコードはちゃんと回り始めてくれた。

「針が落ちないようにここへ乗せるんです」と、まずはレクチャー。

スピーカーから流れるジャズに、しばらく入り込んでみる。年代とか、ジャンルとかよくわかんないけど、「へえ、好きかも」なんて言ってみせたり。ひとりで浸るのも最高だけど、仲間と「ヤバイね」って目配せする瞬間はきっとたまんない。

気持ち良すぎて、少しうとうと。音浴、ハマりそう……。

「昔は友達が新しいレコードを手に入れたら、お菓子やらジュースやら持ち寄って、みんなで聴いてたんだよ」と懐かしそうに話してくれた館長さん。いい音楽をシェアしたくなる気持ちは、今も昔も同じなんだ。でも、アナログの“同じ空間と時間を共有する”特別感がちょっとだけ羨ましい。さっきの僕みたいに、ワクワクしながらレコードを抱えて家に帰ったのかな。音楽のシャワーを全身で浴びながら、また一つ大人の遊びを覚えちゃった、なーんて得意げになっていた。


音浴博物館
廃校になった小学校の分校を活かした、アナログな音に浸る博物館。約16万枚のレコードや蓄音器、年代物のスピーカー・アンプなどを所蔵。来館者は自由にレコードをかけ、“音浴”を楽しむことができる。

西海市大瀬戸町雪浦河通郷342-80
☎︎0959-37-0222
10:00〜18:00
木曜休(祝日の場合翌日休)
https://onyoku.org/

<第2回へ続きます!>